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見えないルールがある
学校では、「ルールがあるんだよ。ルールを見つけてから、それに従って努力しないと意味ないよ」ということを、きちんと教えてほしいなと思う。

「好きな絵を描きなさい」とか、「好きなことを研究しなさい」なんて課題を出して、「自由」にやって、それに点数を付けられる側は、たまらない。

点数が付いて、序列がつくのだから、そこにはもちろん何らかのルールがあるのに、ルールは教えてもらえない。点数の付け方は一方的で、子供達は「自由」と習っているものだから、お互いに付けられた評価を比較して、ルールを探索することすら想像できない。

隠蔽されたルールに、たまたま乗っかった子供は「努力した」ことになって、ルールを探せなかった誰かは「努力不足」になる。「ルールがある」ことを習わない状況での成功は、誉められた子供にしたところで、結果として何がよかったのかが分からないから、次につながらないし、下手をするとその成功が呪縛になって、道を誤ってしまうことだってある。

リアル社会には、「ルールが見えない」状況はたくさんある。でもそこで、ルールを探そうとする人と、内面の「良さ」を磨くことに全てのリソースをブチ込んだあげく、「世の中は分かってくれない」と、何かに屈する人とがいる。

ルールがあるのは当たり前のことだけれど、「当たり前」のことだって、習わなければ分からない。心臓が止まった人の顔色は悪くなる。これは「当たり前」だけれど、外来や病棟で急変して、心肺蘇生が必要な患者さんに対して、「どうしましたか?」と尋ねる研修医は、毎年必ず出現する。習っていないから。

卑怯を提案してほしい
ルールが示されない状況にあって、隠蔽されたルールを見出して成功した人は、「卑怯」であると認識される。「社会に対してどう卑怯であるか」を見いだせなくて、その場の道徳を一生懸命磨いた人は、成功から遠ざかって、結果としてたぶん、道徳それ自体を呪いはじめる。

組織の理念というものは、本来は「卑怯の提案」であるべきなのだと思う。

ある状況を前に、リーダーがそれをどういうゲームであると解釈して、どういう勝ちかたを目指しているのか。その場で「道徳的である」ありかたは、示されなくても見えるけれど、それだけではたいてい、食べられない。道徳に対して、どこに「卑怯」を持ち込んで、組織として食べていくのか、それをリーダーがきちんと示せないと、メンバーの独りよがりな「良さ」が暴走して、組織は瓦解してしまう。

そこが病院なら、「寝たきり老人にありったけの高価薬を投与することで稼ぐ」だって理念だし、「救急を止めずに回して、補助金を得て不採算を回避する」だって理念だと思う。賛否はともかく、方向は見えて、リーダーの考えかたは、みんなに伝わる。ところが「患者様のために素晴らしい医療を提供する」は、きれいな言葉ではあるけれど、理念とはちがう。こんな言葉を聞いたところで、部下はどう動いていいのか分からない。

「本気」を教えてもらうために
「自由にやりなさい」という課題設定は、部下に対して「勝て。やりかたは任せる。負けたらお前の責任で」と命じる上司のようなもので、そのありかたはやっぱりどこかおかしい。

「柔軟な思考が大切です」と昔習って、算数の問題が解けなくて、塾の先生は「算数は暗記だ」と教えてくれた。他のみんなは「考えなさい」と教わって、自分たち塾の子供は過去問を暗記して、頭を使ってないのに、点数は取れた。こういうのは「卑怯」だけれど、卑怯をその場から追放しようと思ったならば、それを禁じるのではなく、それを公知のものにすべきなのだと思う。

読書感想文のような自由課題も、たとえば「団体戦」ルールを導入してほしい。子供への評価は従来どおり、その代わり、クラスで獲得した点数で「団体戦」を行って、担任の先生を全国ランキングしたら、もう「自由に好きなことを書きなさい」と教える先生はいなくなる。それが「教育的」なのかどうかは別問題だけれど、読書感想文が嫌いな子供は、むしろ減るんじゃないかと思う。

読書感想文や自由課題絵画のような、「勝ちかた」が見えない競争は、先生がたの工夫を引き出して、クラスごとに作られた戦略のぶつかりあいになる。ところが100m 競争のタイムを合計して順位付けを行ったら、今度はもしかしたら、足の遅い子供がひたすら怒られることになってしまう。「裏側のルールが見えにくい競争」においては、工夫と戦略、試行錯誤の量が成功を左右して、理念に基づいた比較的健全な組織が生まれる。「速く走ればいい」といったような、ルールが明快な競争だと、今度はブラック企業と言われるような組織に似てくる。

どんな競技を設定すればいいのか、そこは考えどころだけれど、「自由にやりなさい」よりは、たぶん子供は半歩だけ前に進める。

source : 理念とは卑怯の提案 – レジデント初期研修用資料

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